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記者の目:集団的自衛権=鈴木泰広(東京社会部)
毎日新聞 2013年09月10日 01時35分
◇憲法改正で民意問え
安倍晋三首相が、集団的自衛権を行使できるよう、憲法9条の解釈を見直そうとしている。先月には、行使は違憲という政府の憲法解釈を担ってきた内閣法制局のトップを、行使容認派とされる外務省出身者に代えた。戦後の平和主義の基礎となってきた9条の解釈変更は、自衛隊による海外での武力行使に道を開く。だが、「違憲」から「合憲」へ解釈変更を急ぐ目的や必要性が伝わってこない。説明を尽くし、国民の理解を得るのが先だ。
集団的自衛権は、関係の深い他国が攻撃を受けた場合に、自国への攻撃とみなして武力を行使できる権利だ。政府は、9条で行使が許される自衛権は「日本を守るための必要最小限度の範囲」に限られているとし、国連憲章で認められた集団的自衛権については「保有しているが使えない」と解釈してきた。
一方で、安倍首相が第1次政権時に自分の考えに近い学者らを集めて作った有識者の懇談会は2008年6月、「憲法9条が禁じているのは国際紛争を解決する手段としての武力行使。集団的自衛権の行使は禁じていない」という見解を示した。今回、再招集された懇談会の提言を受け、安倍首相は憲法解釈の変更を決断するとみられている。
◇差し迫った課題ないのになぜ?
なぜ今、集団的自衛権の行使が必要なのか。小野寺五典防衛相が具体例として挙げるのが、北朝鮮のミサイル発射に対処する際に、米軍艦艇を守るケースだ。「日本を守ろうとしている米軍のイージス艦が攻撃された場合でも、先に日本が攻撃を受けていなければ反撃の命令は出せない。米艦艇が一方的に攻撃され、自衛隊が何もできなければ、大変な問題になる」と言う。
だが、こうした説明には防衛省内にも「日本に対する攻撃が始まったと考えれば、今も行使が認められている自衛権の範囲で対応できる」と疑問の声がある。海自幹部も「イージス艦には通常、防御艦艇をつける。米軍が自分で守れない状況は考えにくい」と認める。省内では「集団的自衛権が行使できないと困るような差し迫った具体的な課題はない」との見方が大勢だ。
安倍首相はそもそも「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げていた。日米安全保障条約に基づいて、米国は日本を一緒に守る義務があるが、日本には米国が攻撃されても守る義務がない。集団的自衛権を使えるようにして、戦勝国・米国と対等な国になりたいというのが、首相の真意だと思う。しかし、それなら日本が提供している米軍基地はどうするつもりなのか、説明が必要だ。
◇自衛隊の任務どこまで拡大
戦後の日本は戦争放棄を定めた平和憲法の下、経済優先の道を歩んできた。その中で、戦争への反省から「軍隊=悪」というイメージにとらわれ、国防や軍隊について深く考えることを避けてきたように思う。東日本大震災は大きな転機となり、震災後の内閣府の調査で、自衛隊に良い印象を抱く人は91%に達した。今や自衛隊を「要らない」という人はほとんどいないだろう。
だが、災害派遣や国際平和協力活動に比べ、国防に対する理解は広がっていると言えるだろうか。昨年、中国と緊張関係が続く尖閣諸島に近い日本最西端の島・与那国を訪れた。国境の町に陸上自衛隊を誘致すべきか議論されていたが、誘致派が最も訴えていたのは、人口増加と補助金による「経済活性化」だった。国防上必要だという政府との温度差を感じた。
ある部隊の指揮官は「我々はやれと命じられたらやるだけだが、あいまいな議論で任務を拡大してほしくない。隊員も家族も納得できるよう、国民が議論を尽くして決めてほしい」と言う。国防のあり方を決める時に何より大切なのは、日本の平和や国益のために、国民自身が自衛隊に何をどこまでやらせたいと考えるか、だと思う。
集団的自衛権の行使を認めれば、日本が他国の戦争に巻き込まれる事態も予想される。自衛官から戦闘による初めての死者が出る可能性も高まる。国民に、そうした事態を受け入れる覚悟があると、首相は考えているのだろうか。
懇談会の提言は年内にまとまると言われる。首相が繰り返すように「断固として領土を守り抜く」ために何が必要か、国民一人一人が考える絶好の機会だ。首相は憲法改正を「私の歴史的使命」と言う。集団的自衛権の行使が必要だと考えるなら、正々堂々と憲法改正を訴え、国民投票で民意を問えばいい。重い選択の答えを出すのは国民でなければならない。
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