東京【社説】週のはじめに考える 横田基地は必要なのか
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【社説】週のはじめに考える 横田基地は必要なのか
2012年5月13日
東京都の西部に米軍横田基地があります。首都に外国軍の基地があるのは世界でも珍しい。航空機騒音の被害も絶えない横田基地について考えてみます。
横田基地は福生市、立川市、昭島市、武蔵村山市、羽村市、瑞穂町の五市一町にまたがる七百十四ヘクタールの広大な基地です。朝鮮戦争では出撃基地となり、ベトナム戦争では輸送機の中継拠点として使われました。現在はC130輸送機十三機のほか、ヘリコプターなど七機があるだけ。成田空港や羽田空港が過密なら、横田基地はさしずめ過疎でしょうか。
◆広大な米軍空域
基地には在日米軍、在日米空軍、米第五空軍の三つの司令部が置かれています。バートン・フィールド空軍中将が一人で三つの司令官を兼ねています。三月には航空自衛隊の総司令部にあたる航空総隊が移転しました。司令部が集まる場所ですから、米軍の高位高官が出入りしているようです。
横田基地で取材中のできごとです。駐機場から建物まで赤いじゅうたんが敷かれました。将官が来る準備だそうです。「どこから、だれが来るのか」と聞いても、基地側から名前や来日した目的は教えてもらえませんでした。
実は日本政府も、この将官が乗った航空機がいつ横田に降りたのか、だれが来たのか知る術(すべ)がないのです。日米地位協定により、米軍人、軍属、家族は出入国の手続きをする必要がないからです。
横田基地を中心にした一都八県の上空を覆う広大な横田ラプコン(空域)を米軍は自由に使い、どんな航空機でも横田基地に離着陸させることができるから、日本政府はどんな航空機が来たのか知る術がないのです。その意味では、米軍の聖域といえるでしょう。
◆返還目指す東京都
二〇〇六年の米軍再編で多少削られましたが、今も高いところで五千五百メートル、低いところでも二千四百五十メートルの巨大な空域が広がり、民間航空機の運航の障害となっています。羽田空港から西日本や韓国へ向かう民間航空機は、高度を上げて横田空域を飛び越えるため、航空路が過密になり、航空機同士が異常接近するニアミスも起きています。
首都に主権の及ばない米軍基地と米軍が管理する空域が広がる日本は、まともな国といえるでしょうか。そして日米両国は対等でしょうか。
東京都は、横田基地の返還を最終目標にした軍民共用化や横田空域の返還を求めていますが、日米両政府の話し合いはさっぱり進みません。米国の拒否の上に、政府はあぐらをかいていると疑われても仕方ありません。
この間、基地騒音に悩む周辺住民が起こした横田基地をめぐる騒音訴訟は四件が確定し、日本政府から五十一億円の損害賠償金が支払われました。もちろん税金です。現在も二つの原告団が提訴を準備中です。
基地騒音訴訟は過去分の被害については国が賠償するとの判決が最高裁で示され、提訴されれば国が負ける図式が定着しています。裁判で負けるのが分かっているのに何もしない。ここでも政府の無策ぶりが際立っています。
横田基地は、政府が基地を維持するため地方自治体にカネを払う基地行政の原点でもあります。
一九七三年一月、日米安全保障協議委員会で東京や周辺の米軍基地を集約する関東空軍施設整理統合計画(KPCP)が話し合われ、横田基地に府中空軍施設、キャンプ朝霞、立川飛行場など六施設が集約されることになりました。
当然ながら横田基地の周辺自治体は過重な負担に反対します。福生市が代償として四百六十八億円を要求すると、福生方式は他の自治体にも波及して補償金が支払われ、KPCPは実施されました。福生市の要求は、基地の周辺自治体に補償金を支払う環境整備法の制定につながり、防音工事も導入されました。
基地がカネを生み出すせいか、周辺自治体の「基地反対」の声は大きくないようです。「安全保障は国の専権事項だから反対しても無駄。基地対策費が充実するならやむを得ない」と考えるのでしょうか。東日本大震災で福島第一原発が事故を起こす前の原発周辺の自治体と構図は似ています。
◆戦後は終わっていない
日本が主権を回復したサンフランシスコ講和条約から六十年。今なお、全国に百三十二カ所もある米軍基地・施設は、すべて日本の防衛や極東の安定に不可欠なのでしょうか。各地に当たり前のようにある米軍基地に慣れ過ぎて、無関心になってはいないか。遊休化したようにみえる横田基地を訪れるたび、「戦後は終わっていない」と実感するのです。
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