特集ワイド:今さらですが 武器輸出三原則 共同開発、供与…進む緩和 「平和主義」守れるか
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特集ワイド:今さらですが 武器輸出三原則 共同開発、供与…進む緩和 「平和主義」守れるか
原則すべての武器の輸出を禁ずる「武器輸出三原則」が大幅に緩和され、友好国との武器の共同開発・生産や、国際協力のための供与が解禁された。生産コストの削減などのためだが、平和主義から生まれた三原則の形骸化を心配する声もある。今さらですが、「武器輸出三原則」とは?【宮田哲】
◇米国、中東の警戒解いたが コスト高の単独開発に限界 「目的外使用」「第三国移転」不安
Q 武器輸出三原則とは何ですか。
三原則と憲法の関係に詳しい青井未帆学習院大教授(憲法学) 1967年に佐藤栄作首相が表明した政策で、(1)共産国(2)国連決議で武器輸出を禁じた国(3)国際紛争当事国かまたはその恐れのある国--には武器輸出を認めないという内容です。さらに76年には、三木武夫首相が政府の統一見解を発表。国際紛争の助長を避けるため、三原則対象地域以外も、憲法の精神にのっとり輸出を「慎む」ことになり、実質的には全世界への輸出が禁じられることになりました。
日本では、輸出を外国為替及び外国貿易法で管理しており、三原則は法的には外為法の政令の運用指針という位置づけになります。佐藤首相の表明前から、同様の運用方針が通産省(当時)内にはありましたが、首相の表明で格段の権威を持つようになりました。表明の背景には、ベトナム戦争反対の世論を受けて、国会でも武器輸出を巡る議論が盛んになったことがあります。憲法の条文に直接武器の輸出を禁じたくだりはありません。三原則は、非核三原則などと同様に、憲法の平和主義の精神が具体的な「形」になったものと考えられ、高いレベルの規範になったのです。
Q 三原則はどんな役割を果たしたのでしょうか。
軍備管理に詳しい佐藤丙午拓殖大教授(政治学) 中東などの国際紛争の現場で、日本は武器の売り込みが絡まない、正直な仲介者と見なされました。国際政治での日本の発言が各国に警戒されないことに役立ったのです。また、日米の安全保障協力にも寄与しました。米国が日本に技術を提供しても、第三国に漏れる心配がなかったからです。
石破茂元防衛相 輸出ができない防衛産業の基盤維持のため、自衛隊の装備は国産品を優先的に買ってきました。価格は高くなり、納税者の負担は重くなりました。海外で装備を使うことはまれだったので、データ的には優秀でも、実際に役立つかは分からない難しさもありました。武器輸出は安全保障上の力にもなります。日本の利益に反することをしようとする国に「もう武器は売らない」という態度を示して、思いとどまらせることができるからです。日本はこうした抑止力を放棄してきたとも言えます。
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Q 緩和の背景は?
佐藤さん 政府は既に官房長官談話で三原則に例外措置を設け、理念を尊重しつつ、政治判断で輸出を行ってきました。米国との間では、83年に武器技術の供与が、04年にはミサイル防衛(MD)システムの共同開発・生産が例外扱いになり、MD以外の共同開発・生産案件も「個別に検討する」こととなりました。米国以外でも、06年に海賊対策のためにインドネシアに巡視艇の供与が決まり、イラクなどでの自衛隊の海外活動に伴う武器の持ち出しも例外扱いになっています。
石破さん 冷戦後の国防予算削減で軍需産業の再編・巨大化が進む中、武器のシステムは複雑になり、開発コストは増大。1国での開発はリスクが高くなり、主流は多国間の共同開発・共同生産に移りました。共同使用もメリットがあります。外国の部隊と一緒の活動地域で武器が同じ性能なら作戦も立てやすい。
日本は三原則のため、航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)に選ばれたF35の開発にも参加できませんでした。価格は共同開発国より割高になるでしょう。コスト削減と生産基盤の維持のため、米国以外の国とも共同開発・生産が必要でした。
Q なぜこの時期に緩和されたのでしょう。
石破さん 私が防衛庁長官、防衛相だった時も緩和を考えましたが、有事法制やイラク派遣など優先事案が多すぎてできませんでした。自民党が武器輸出に慎重な支持者の方々が多い公明党と政権を組んでいた事情もあります。緩和は保守の野田佳彦さんが首相になったことも影響したと思います。民主党政権で唯一称賛に値する決定です。
佐藤さん 年末の決定は、今月から始まった南スーダンでのPKO(国連平和維持活動)の前に緩和する必要があったのではないでしょうか。武器に当たる自衛隊仕様の建設重機などはこれまで持ち帰っていたが、必要としている現地に残していけば、地域の平和に大きく貢献できます。
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Q 緩和に問題は?
青井さん 藤村修官房長官の談話は、平和貢献や国際協力での海外移転を可能にし、国際共同開発・生産は、日本が参加国と安全保障面で協力関係にあり、日本の安全保障に資する場合に実施する、との内容でした。輸出品の「目的外使用」や「第三国移転」には、日本の事前同意を義務づけています。
だが、「目的外使用」や「第三国移転」の規制は、本当にできるでしょうか。例えば戦闘機の共同開発に参加して第三国移転の話が出た時、他にも参加国がいる中で、日本がその可否について意思を通せる範囲は限られるでしょう。三原則の形骸化が心配です。
憲法に基づく「国是」とも言われた重い規範が、昨年11~12月の副大臣級非公開協議3回だけで、公開の場での議論も国民的議論もなく変えられました。現政権がこんな手抜きで済ませたのは、三原則がよって立つ憲法をないがしろにしたに等しい。
Q 今後はどうなっていくのでしょうか。
佐藤さん 問題は、共同開発の相手国が武器をどう扱うかです。日本の武器や技術が、国連安保理が定める「国際の平和及び安全を維持しまたは回復する」ための措置である軍事力行使に使われても、三原則の理念は揺るがないでしょう。理念堅持のため、共同開発の相手は国際平和に責任を持った国に限ることは徹底すべきです。
青井さん 兵器の輸出管理には国際的な枠組みがありますが、そこで管理体制を認められた国々でも、独裁国家に武器を売っている例はある。憲法9条があり、武器を輸出しなかった日本の独自性は多くの人の誇りでした。変わる必要があるのは日本と世界のどちらでしょうか。平和憲法の精神に立ち返り、世界の武器を減らすため発信していくべきではないでしょうか。
◇武器輸出三原則緩和までの主な流れ
11年 9月 7日 前原誠司・民主党政調会長が米国で「三原則」を見直すべきだと発言
8日 藤村修官房長官が「三原則の基本理念は堅持する。(見直しは)前原氏の持論」と否定
10月13日 民主党防衛部門会議が見直しの要求を確認
14日 野田佳彦首相が見直しに前向き発言
11月 4日 藤村官房長官が見直しの検討開始を表明
28日 見直しの副大臣級の初会合が開かれる。計3回開催
12月24日 一川保夫防衛相(当時)が緩和方針を表明
27日 安全保障会議(議長・野田首相)で、大幅緩和を決定。藤村官房長官が談話発表
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